村上春樹の同名短編小説を濱口竜介監督が映画化した『ドライブ・マイ・カー』(2021年)は、カンヌ国際映画祭脚本賞をはじめ、米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞するなど、世界中で極めて高い評価を受けた現代の傑作です。妻を亡くした舞台俳優・演出家の家福が、広島での演劇祭に向かう愛車の中で、寡黙な専属ドライバーのみさきと過ごす時間を通じて、自身の抱える深い喪失感と向き合っていく姿を3時間を超える静謐なトーンで描いています。

チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』が物語の重要な核として機能しており、多言語で行われる演劇の稽古風景と、現実の登場人物たちの感情が重なり合っていく演出が秀逸です。西島秀俊の抑制された演技と、三浦透子の凛とした佇まいが、言葉を超えた魂の交流を見事に体現しています。

喪失からの再生という重厚なテーマを、車中という密閉された空間と、美しい広島の風景の中で描き出した、非常に文学的で映画的な体験を提供する一作です。現代日本映画が到達した一つの頂点と言えるでしょう。