『ハッシュ!』の橋口亮輔監督が、一組の夫婦が歩んだ10年間の道のりを、当時の社会情勢や凄惨な事件(法廷)の背景とともに描いた『ぐるりのこと。』(2008年)。法廷画家として働き始めた、飄々としていて少しだらしない夫・カナオと、几帳面だが第一子を失ったショックで精神のバランスを崩していく妻・翔子の姿を淡々と綴ります。

本作が多くの人の心を打つのは、ドラマチックな大逆転があるわけではなく、絶望的な状況にあっても、ただ相手のそばに居続けること、一緒にご飯を食べ、少しずつ歩き出すことの尊さを描いているからです。リリー・フランキーと木村多江の、演技を超えたかのような自然な佇まいが、夫婦という「他人同士の最小単位」の強さを体現しています。

世の中の残酷さと、そのすぐ隣にある個人のささやかな幸福。その両方を等しく、優しく見つめる橋口監督の誠実な作家性が光る、大人のための名作です。