こうの史代の同名漫画を片渕須直監督が映画化した『この世界の片隅に』(2016年)は、クラウドファンディングによる支援から始まり、異例のロングランヒットを記録した感動作です。昭和19年、広島市から呉市へと嫁いできた絵が得意な女性・すずが、戦争によって物資が不足し、空襲が激しさを増す中でも、日々の暮らしを大切に営んでいく姿を丁寧に描きます。

本作が素晴らしいのは、戦争を「大きな歴史のドラマ」としてではなく、当時の人々が食べていた献立や洗濯の仕方といった「名もなき人々の日常の集積」として描き切った点にあります。すずの少しおっとりとしたキャラクターとのんの透明感のある声が、過酷な現実に一筋の光とユーモアを与えています。

徹底的な時代考証によって再現された当時の呉の風景と、爆撃によって奪われていくかけがえのない時間。それでも「この世界の片隅」で生きていく決意をするラストシーンは、平和への祈りとともに、日常の尊さを改めて教えてくれます。