大岡昇平の小説を、塚本晋也監督が執念の自主制作で映画化した『野火』(2014年)は、これまでの「お涙頂戴」的な戦争映画を根底から覆す、あまりにも残酷で、しかし直視せざるを得ない衝撃作です。第二次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。敗走を続ける日本軍の兵士・田村は、部隊からも病院からも見捨てられ、地獄のようなジャングルを彷徨います。

全編を貫くのは、飢餓によって人肉食(カニバリズム)へと追い詰められていく人間の極限状態。塚本監督自らが主演し、痩せこけた体と虚ろな瞳で戦場の狂気を体現しています。鮮やかなジャングルの緑と、飛び散る鮮血、そして不快な虫の音。五感を刺激する強烈な演出が、戦争の「本当の姿」を観客に突きつけます。

「今の日本が戦争に向かっているのではないか」という危惧から本作を完成させた監督のメッセージは、平和ボケした現代社会に強烈な警鐘を鳴らす、鎮魂と警告の一作です。