1984年に公開された伊丹十三の初監督作品『お葬式』は、日本社会における伝統的な儀式の舞台裏を、独自の観察眼でユーモラスに切り取った画期的なコメディです。ある日突然亡くなった妻の父親の葬儀を出すことになった、俳優夫婦。戸惑いながらも、マニュアルを片手に「お葬式」を執り行う親族たちのドタバタ劇を、冷徹かつ温かい眼差しで描いています。
死という厳かなはずの儀式が、実は段取りや世間体、そして人間の生々しい欲望によって構成されている様を暴き出す脚本が秀逸です。山崎努と宮本信子の夫婦役の絶妙な掛け合いや、大滝秀治演じる僧侶の圧倒的な存在感など、脇を固める俳優陣の名演も見どころです。伊丹監督は、遺影の選び方から精進落としの様子まで、日本人が共有している「あるある」を映像化し、大きな共感と笑いを呼びました。
キネマ旬報ベスト・テンで1位に選出され、日本アカデミー賞を独占した本作は、日本映画に「エッセイ映画」とも呼ぶべき知的な観察コメディというジャンルを確立した記念碑的な一作です。