Jホラーの旗手として世界的に評価される黒沢清監督が、ホラー要素を排して現代の家族の肖像を冷徹に描き出し、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『トウキョウソナタ』(2008年)。大手企業をリストラされたことを家族に言えず、毎朝スーツを着て公園や職業安定所へ通う父親を中心とした、すれ違う4人家族の姿を描きます。

父親の威厳にしがみつく男の悲哀、米軍に入隊しようとする長男、こっそりピアノを習い始める次男、そして虚無感を抱える母親。それぞれが秘密を抱え、家族という形が静かに崩壊していく様子が、黒沢監督特有の不穏なカメラワークで捉えられます。

しかし、どん底の絶望を経験した後に訪れるラストのピアノ演奏シーンは、すべての罪と悲しみを洗い流すかのような美しいカタルシスに満ちており、見る者に静かな希望を与えてくれます。