1953年に公開された溝口健二監督の『雨月物語』は、上田秋成の古典文学を映画化した、幻想的な美しさに満ちた傑作です。戦国時代の動乱の中、一攫千金を夢見て家を離れた二人の男と、その帰りを待つ妻たちの悲劇的な運命を描いています。溝口監督は、現世の欲望と異界の幻を継ぎ目なく繋ぎ合わせ、幽玄の世界を見事にスクリーンに定着させました。

最大の見所は、京マチ子演じる若狭姫の屋敷でのシーンです。霧深い湖での舟の場面や、様式美を極めた屋敷の庭の描写は、まるで絵画のような美しさを湛えています。溝口監督の代名詞であるワンシーン・ワンカットの長回しが、現実から幻想へと緩やかに移行する様を完璧に捉えています。しかし、その美しさの裏側には、戦争によって最も虐げられる女性たちの悲哀が、鋭く、そして慈悲深く描き込まれています。

ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞し、黒澤明、小津安二郎と並んで「世界のミゾグチ」の名を不動のものにした本作は、映画が到達しうる至高の芸術性を証明した、永遠のマスターピースです。